Baa Baa Black Sheep / Traditional

 

Lyrics&訳

Baa baa black sheep

Have you any wool?

Yes sir, yes sir

Three bags full

 

メェメェ、黒い羊さん

羊さんの毛、あなたもあるの?

もちろんですとも もちろんですとも

袋に一杯、三つ程

 

One for my master

And one for my dame

And one for the little boy

That lives down the lane

 

一つは御主人

一つは奥様

残る一つは少年に

通りの向こうの少年に

 

この曲について

 所謂、マザー・グース(Mother Goose)の一曲です。黒い羊に「あなた、羊毛を持っているのかしら」と尋ねられて、「勿論持ってますよ。御主人にも奥方様にも、街の外れに住んでいる子にも使って頂いていますよ」と答えているという内容になります。

 

 と、シンプルに捉えればそれだけの曲です。単純な内容と、きらきら星に似たメロディから、子供向けの曲としてとても親しみやすくできています。
 しかし、大人になってからこの歌詞を見てみると、どうにもこうにも裏を読みたくなってしまいますね。

 

 何よりもまず、 Black Sheep(黒い羊)という名詞自体、「厄介者」とか「一族の恥」という意味を持った言葉としても使われます。それを踏まえてこの歌詞を見ると、最初の問いかけは、とてもステレオタイプに満ちた、悪意ある皮肉のように思えます。
 そもそも、羊を目の前にして「やあ、君は羊毛というものは持ってるのかね」なんて訊いていること自体、不自然です。となると、この問いかけの意味は「やあ、黒い羊さん。羊の毛ってふつう白いものだと思うんだけど、お前のその黒い毛は使い物になるのか?と言うか、そもそも羊毛っていうカテゴリに入れて良いものなのか?」という、侮蔑とからかいの念を込めた言葉と見て取れます。
 そして、そんな不躾な言葉に対しても Yes, sir (は。左様でございます) と慇懃に答えている黒い羊を見ると、この会話から見えるのは、主従関係というよりは、奴隷と貴族のような関係なのではないでしょうか。

 

 そして、自分の一部を切り取った羊毛は三つの袋を満たせるほどになりますが、そのうち二袋、つまり三分の二は御主人とその奥方に渡ることになります。言い換えれば、町に住む少年には三分の一しか行かないとも取れますし、もっと言えば黒羊自身には何も残らないとも取ることができます。こんな見方をした場合、この曲は富裕層と平民との社会的扱いの対比を描いていると解釈することもできます。


 前述の読み方と合わせてみると、この曲、実はなかなか痛烈な社会風刺の曲として捉えることもできるのではないかなと思います。
 勿論、子供向けの寓話として捉えても何の問題も無いのですが、寓話はやはり寓意を見い出したくなるもので……考えすぎかもしれませんが、逆にあれこれ想像させてくれるのも、マザー・グースの醍醐味かなと思いますので、是非皆さんもいろんな説を展開してみて下さい。

 

 さて、この曲は1731年にはイギリスで出来ていた曲……というか、お話のようですね。

Baa, Baa, Black Sheep - Wonderful Songs for Children | LooLoo Kids
 

 そして、先ほどきらきら星に似たメロディと記述しましたが、この曲もきらきら星も、メロディはもともとはフランスの歌に源流があるようです。この楽曲、18世紀中にモーツァルトによってアレンジされ 12 Variationen über ein französisches Lied "Ah, vous dirai-je, maman"(訳題:フランスの歌曲「ああ、お母さん、あなたに申しましょう」による12の変奏曲 ※出典:Wikipedia)として発表されたのですが、これがうけたのか、色んな歌詞を付けて童謡に応用されたようです。(ちなみに、この曲の邦題は、原題を完全に無視して「きらきら星変奏曲」とされているようです)

 

訳、言葉について

 Black sheep は、既に述べましたが「黒い羊」の他に「厄介者」という意味で使われることが有ります。

 

 Yes, sir は、もはや日本でも「イエッサー」で通じますね。目上の人に了解の意を告げる常套句です。

 

 Dame は、貴族階級を持った女性に対して使う言葉です。訳上では「奥方」と訳しましたが、必ずしも男性貴族の妻には限定されません。

 

 Down はこの場合「今いる場所から離れた場所」を意味する言葉になります。The Weight にも出てきた表現ですが、 Go down は「ここから離れなさい」という意味になりますし、逆に「近づいてきて」と言いたい場合は Come up になります。英語では、自分に近づくほど「上がる」、遠ざかるほど「下る」というニュアンスがあるようです。